ケニアでテロ攻撃を行っているテロリスト集団、アルシャバーブを題材にした映画 Eye in the sky がケニアで公開になったので、早速見てきました。(南アでロケを行ったそうです。)

ウェストゲート事件やガリッサ事件などの一連のケニアでのテロ攻撃で指名手配トップのテロリストを追うイギリス軍の大佐が、ドローンなど最新ハイテク機器を駆使して彼らの居場所を突き止めていくが、そこにイギリス出身の白人女性でアルシャバーブの重要メンバーになっている女性とその夫、アメリカ国籍のテロリスト男性が、新たなテロ攻撃を準備している様子を、カブトムシ型の小型ドローンが捉える。

最初は生きたまま逮捕することが指令だったが、そこから急きょ、空爆へと指令が変更になり、そのやり取りが、イギリスの司令部と、イギリスとアメリカの政治家たち、軍部、法務官などの間でやり取りがされていく。(イギリスの司令室や、世界中あちこちにいるイギリスとアメリカの政治家は、画面でドローンからの映像を見ながら電話でやり取りをする。)

そして無人機を操作し、その地域全体を映し出しながら、実際に空爆するためのスイッチを押す指令を受けるのはアメリカ空軍の若い兵士2人(女性1人と男性1人)。この2人が自己紹介のときに会話をするのだけど、その会話がリアル。女性が男性に聞く。なんでこの仕事についたの? そしたら男性が答えるのは、大学の学費のローンが残っていて、軍で4年間働いたらその支払いが保障されるために入ったんだ。(この会話は最初のほうのシーンでなにげに出てくる。)

テロリストの親分のナイロビの自宅から、ナイロビのソマリア人地区のイシリーにテロリストたちが移動、イシリーの一軒家で自爆テロのための準備と、予告動画の撮影をする様子を、イギリスの司令部ではみんながドローンからの映像で見ている。

イギリスとアメリカの軍司令官と、空爆を許可するかどうかをせまられる政治家たちと、法律的には問題があるのかどうかと問われる法務官と、実際に指令を受けてスイッチを押す役割の米軍の若い空軍兵士たちとの間のいろんな葛藤とか議論とかが全編つうじて展開されるのだけど、そのイシリーの家のとなりに住んでいるソマリ系ケニア人一家(一般人)が最初からフィーチャーされて、お父さんは自転車修理工、お母さんは家の石釜でソマリ風のおいしそうなパンを焼いていて、その傍らで10歳くらいのかわいい女の子が遊んだり勉強したりするほほえましい様子が何度かうつしだされる。質素な暮らしを家族みんなで支えあって一生懸命生きている愛情深い一家というかんじ。

お母さんが焼いたパンを女の子がバスケットに入れ、売りに行く。ちょうどテロリストの家の塀のすぐ外にパンを売るための木の台があって、そこでパンを並べて売るのだけど、彼女が遊んだりパンを売ったりしている姿をドローンの操作をしている米軍兵士が目撃する。それで、ここをもしも空爆したら彼女は確実に死ぬということで、空爆するか否かということでそれぞれに苦悶葛藤する。各自に様々な人間的な側面をあらわすようなエピソードがはじめのほうでなにげに出てきていて、例えば、高慢な将軍役のおじいちゃんが、孫娘のためのおもちゃを買うために右往左往している様子のシーンがある。

スイッチ押すのかどうか、それは映画を見てください。

とても見ごたえある映画だったけど、ただ、どうしてこの映画をいま作ったのかということについての裏まで考えると、世界各地での空爆を正当化するためのもの? という深読みもしたくなってしまうのですが、でも一応、両方のサイドを人間的に描いていこうという努力はうかがわれた。

ものすごく驚いたのは、ドローンの技術。世の中はすでにここまで来ているのか。というかんじ。

空からは無人機でその町全体を映すわけだけど、(そしてその無人機でスイッチひとつで空爆も行う。)、すごく小さな虫のドローン、鳥のドローンなどがあって、それを遠距離から操作して家の中まで飛ばして、イギリスやアメリカの司令部でそれを見ることができる。映し出された人物は、これが本当にその人物かという照合を、わずかな部分映像で(例えば耳や頭の形などで)瞬時にコンピューター解析して結果を出すことができる。これがいま現実に可能なことなんでしょうね。

そして、ソマリア沖海賊の映画「キャプテン・フィリップス」でデビューしたソマリア系アメリカ人のバーカッド・アブディがケニア側の諜報部員というとても重要な役割で好演している。

 

2016.04.10 早川千晶

映画「Eye in the Sky」の前評判